目次

・世代間交流を利用したWIN-WINの次世代型下宿方法?

・しかし日本の異世代ホームシェアリングの現状は……?──シェアリング・エコノミー自体の低い認知度

・日本における実際の異世代ホームシェアの取り組み例

・なぜ今異世代ホームシェアなのか

世代間交流を利用したWIN-WINの次世代型下宿方法?

異世代ホームシェアとは聞き慣れない言葉ですが一体何の事でしょう。


これは呼ぶ側によって「異世代ルームシェア」「次世代下宿」「世代間交流ホームシェア」などとも呼ばれ未だに呼び方が定まっていないもので、英語では”Intergenerational Homeshare(インタージェネレーショナル・ホームシェア)”という呼び方が最も目につくものなのですが、それらは簡単に言えばリタイアなどをした方あるいはシニア世代の人々が、若者世代の人に自宅の一部の空きスペースを無料あるいは相場より安価な家賃で提供する試みです。

シニア世代と若者世代それぞれがこのようなルームシェアをする理由は異なり、例えば以下のような理由がみられるようです。


「子どもたちが独立して、家を出た」、「伴侶に先立たれて、いまは一人暮らし」……。さまざまな理由から、高齢者が住む自宅で空き部屋が生まれることがある。その一方で、アルバイトや奨学金によって一人で暮らす大学生や、高い家賃に悩まされている若者もいる。

https://www.huffingtonpost.jp/2017/05/22/heartwarming-house_n_16759516.html

異世代ホームシェアは1990年代後半にスペインで始まり、その後2000年前後でフランス、オランダなどのヨーロッパ圏に広がりを見せました。特に、フランスにおいては2003年の猛暑により独居高齢者を中心に約15,000人もの人々が熱中症で死亡。その事を契機に、運営団体の活動が活発化し始めました。(参考:国土交通省〈http://www.mlit.go.jp/common/001220376.pdf〉)

近年ではアメリカでもその取り組みが見られるようになり、世界的に徐々に広がりを見せ始めていますが、その内容はと言えば具体的には例えばオランダの例を意訳するとこのような取り決めのようです。

Humanitas Student Living was started after a student contacted the Humanitas CEO because his campus housing was ‘too noisy’. The project provides rent free accommodation to 6 university students who contribute 30 hours a week to activities with the elderly. In exchange, students can come and go as they please but they must promise not to be a nuisance to their older housemates.

(一人の学生が彼の学生寮があまりに騒がしいという事で人文学の最高責任者と契約を交わした事によって人文系学生居住が始められた。このプロジェクトは高齢者の人々と一週間に30時間の活動を行える6つの大学の学生に対して無料の居住施設を貸すというもので、そのかわりに学生は好きな時に行ったり来たりが出来るのだが、しかし彼らはその年配の同居者達を絶対に困らせないという約束を守らなければならない。)

http://www.studentworldonline.com/article/innovative-student-housing-projects-to-help-fight-loneliness/864

その他にもフランスの事例として(NPO団体Ensemble2Generatio)このようなものがあります。

・高齢者(60才以上)と学生(18~30才)はNPOに登録料を支払い、条件の合う者どうしで数回の面談を経て同居を開始し、同居時に仲介料を支払う。NPOは、入居後も定期的に住宅訪問やメール・電話等でケア。

•同居の形態は、高齢者の希望に応じて以下のような3タイプを選択。

無料住居 :週6日の夕食の同席と夜間在宅が条件で家賃は無料。

経済的住宅:週1日の夕食の同席と夜間在宅、買い物支援などが条件で家賃は格安。

連帯住居 :高齢者は部屋だけ提供、高齢者への配慮が条件で家賃は低廉。

出所:国土交通省〈http://www.mlit.go.jp/common/001220376.pdf

(この団体の同居に関するルールなどの詳しいので情報はこちらによく書かれているので参考にどうぞ。⇒「若者と高齢者、2世代間の絆を育む――フランスの異世代ホームシェア」https://synodos.jp/international/20078

ではそのような異世代ホームシェアリングのシニアと若者双方のWin-winな点とはどのようなものでしょうか。

その点に関しては2016年から京都府の「次世代下宿 京都ソリデール事業」の委託業者として活動をしているaddSPICEのまとめが参考になるのでそのまま引用させて頂きます。

■事業の利点
【シニアのメリット】
①空いている部屋を貸して収益を得る
②若者と一緒に住み、知識や新たな経験を得る
③防犯面で安心
④若者の手助けとして社会貢献になる
【若者のメリット】
①比較的低廉な賃料で、設備や立地など質高い居住空間を借りられる
②一人で住むより京都らしい知恵や知識を得られる
③シニアを見守り社会的貢献になる
【まちへのメリット】
①優秀な若手の流出を防ぎ、流入を増やす
②若者がまちに入り込めるきっかけが生まれる
③空き家化を防ぐ
④災害時受け入れ住宅のネットワークづくり


引用:http://addspice.jp/case/jisedaigeshuku/

しかし日本の異世代ホームシェアリングの現状は……?

では、翻って日本においてはどうでしょうか。日本においては、まだこの取組みは始まったばかりだと言えるでしょう。

主にNPOや福井大学や京都府といった自治体レベルで徐々に取り組みが散見されるようになりその広がりの萌芽を見せている、とは時々言われるものの、今だにまだその進捗状況が掴めないと言っていいのではないでしょうか。

過去にも影響力のある人がこのような取り組みに関して発言をしてはいるものの、そのようなプラン自体がその都度立ち消えているようにも伺えます。

猪瀬直樹元東京都知事:「都営住宅にシェアハウス」お年寄りと若者共生https://sharepare.jp/news/22386
保坂展人世田谷区長:「高齢者の孤独」を癒す「学生・若者とのホームシェア」の可能性はhttps://www.huffingtonpost.jp/nobuto-hosaka/home-share_b_8283440.html

何故日本においてこの取り組みが進まないようにみえるのか。

その答えとして、例えば以下のサイトでは日本の異世代ホームシェアが依然として進まない事に関して以下のような分析をされています。

There are considerable barriers to homesharing in Japan – cultural and practical. People expect families to look after older relatives; there is no tradition of having non-family guests to stay in the home; and Japanese homes tend to be small anyway. Despite these barriers, interest in homesharing has been growing as a solution to lack of affordable student accommodation and the social isolation of some older people.

(日本におけるホームシェアリングには大きなバリアが─文化的にそして実際的──にある。人々は家族に年配の親戚の面倒をみるように期待するのであり、それは家族ではない人に家の中に滞在してもらう伝統がないのであり、またいずれにせよ日本の住居は小さい場合が多いのである。このようなバリアにかかわらず、ホームシェアリングに対する関心は金銭的余裕のない学生のための施設の不足や年配者の社会的孤立に対する解決策として今日まで広がってきた)

https://homeshare.org/programmes-worldwide/japan/

また、他にも日本においてはホームシェアリングに限らずシェアリングというもの自体が進んでいない傾向があると言えるでしょう。

そもそも現代社会は資本主義も終焉を終えその次のシェアリングエコノミーの時代だとも言われてもおり、この異世代ホームシェアリングもまさにシェアリングエコノミーという枠組みの範疇にあるものだと言えるはずです。【シェアリングエコノミーについて知りたい方は⇒「5分でわかるシェアリングエコノミーとは?」https://isedai.com/shearing-economy/

しかし現状日本においてはシェアリングエコノミーの認知度も少なく、市場規模も非常に低いと言う問題点があり、そのような根本的な問題からも異世代ホームシェアリングの難しさが伺えます。

(日本では2017年度のシェアリングエコノミーの市場規模の推計がいくつかの民間研究所によって推計されているが、株式会社矢野研究所は約717億円また内閣府の調査研究による試算では約4,700億円~5,250億円程度とされる。その一方中国は2016年時点で約56兆や65兆、2017年は83兆という試算も出ており、その規模感の圧倒的な違いが伺えます。出所:経済産業省”http://www.meti.go.jp/shingikai/economy/stat_share_eco/pdf/001_01_00.pdf”、千葉銀行上海駐在員事務所 ”https://www.chibabank.co.jp/hojin/other_service/market/pdf/china_1708.pdf”)

日本でシェアリングエコノミーが盛り上がらないのは民泊やライドシェアの例からわかるように抵抗勢力と規制が強いことが第一の要因だと言えそうである。

加えて日本では、欧米のような人権や自然権の思想が根付いていないことにも一因があるのではないかと私は思っている。

https://www.newsweekjapan.jp/marukawa/2018/09/post-41_4.php

このように日本ではまだまだ異世代ホームシェア以前にシェアリングエコノミーのシェアという事自体の難しさという問題があるのかもしれません。

日本における実際の異世代ホームシェアの取り組み例

では日本における実際の異世代ホームシェアの取り組みとは現状大まかにどのような流れで行われているのでしょうか。以下のページでは例えばこのように記載されています。

異世代ホームシェアはNPOなどが中心となって事業展開をしています。まず、NPOが一人暮らしで空き部屋を貸してくれる高齢者と、安く家を探している学生を募集します。募集があってもすぐに同居が始まるのではなく、両者のマッチングを行います。NPOのコーディネーターが双方の希望を聞いた上で、同居に問題がないかどうかを判断してマッチングをしていきます。一般的な賃貸物件とは違い、両者の相性を見極めることが重要です。

https://www.homes.co.jp/cont/living/living_00216/


他にも、例えば2012年から東京で勢力的に異世代ホームシェアの普及活動を続けてきたNPO法人「リブ&リブ」(東京都練馬区)では基本的に家賃は無料であり、学生がシニアに払うのは月2万円の光熱費や生活雑貨費のみだといいます。また、当NPO法人では設立以降都内を中心にこれまで13組の同居が成立したようです。

他にも京都府の取り組みでは、学生側が月に支払う住居費は2万5千~3万5千円程度で、これまで9組の学生とシニアの同居が成立をしているといい、実際の生活においては学生が浴室の天井掃除などを進んで引き受けてシニアの生活を積極的に手助けしようとする姿がみられるようです。

出所:https://www.sankei.com/life/news/180712/lif1807120004-n3.html


なぜ今異世代ホームシェアなのか。

異世代ホームシェアは世界的な社会問題の解決に寄与する極めて社会的な取り組みだと言えるでしょう。


例えば、日本社会に限ってみても異世代ホームシェアの向き合う社会問題とは大きく分けて2つあり、一つが高齢化社会問題に付随する高齢者世代の介護問題や人生100年時代における「生きる意味」や「孤独化」などのセカンドライフの生き方問題など、シニアの肉体と精神の問題に一つの解を投げかける挑戦的試みな点。


そしてもう一つがよく語られる格差・貧困の問題で、家庭の経済的な理由で親からの手助けは望めずにとても実家を出たり遠方での進学は諦めなければならない子供や、諸々の事情によって引きこもり・ニート(NEET)となってしまったがもう一度自分の意思で社会復帰してやり直したいという若者に、経済的な面での自立可能性を提案できる点があります。


後者に関しては、社会や他人とのつながりに関して抵抗を持ってしまった若者のリハビリ的側面も考えられる点で、それは前者のシニア世代の精神問題と相互関係的に解決を目指せる可能性にもなるでしょう。

New research from the London School of Economics has found that Intergenerational cohabitation may have contributed to stemming rates of depressive symptoms among older people.

(ロンドン・スクール・オブ・エコノミックスの最新の研究によれば異世代による同棲は高齢者のうつ病の割合を減らす事に貢献する可能性がある事を発見しました。)

http://www.studentworldonline.com/article/innovative-student-housing-projects-to-help-fight-loneliness/864/

そしてまた、

This concept may not be limited to students who are short of money. It could suit mature students, or those who are used to living with older family members, as well as students interested in health and social care or even the history buffs – students could experience a whole side of history that they couldn’t have learnt about in any book or Wikipedia page!

(このコンセプト【異世代ホームシェア】はなにも金銭的余裕のない学生だけには留まらない。これは成人学生にも向いているかもしれないし、また高齢の家族との同居に慣れている人、ヘルスケアやソーシャルケアに関心のある学生、はたまた歴史通にとっても向いているかもしれない──なぜなら学生はどんな本やウィキペディアからも学ぶことの出来ない歴史のサイドストーリーを経験できるかもしれないのだから)

http://www.studentworldonline.com/article/innovative-student-housing-projects-to-help-fight-loneliness/864/

何より、日本社会における異世代ホームシェアが果たせる役割の大きさは統計による実際的な数値がよく表しています。

平成27年の総務省統計局による国勢調査によると、現在約1億2000万人の人口のうち、65歳以上人口は約3300万であり、人口の4分の1が65歳という事も驚きですが、そのうち約600万人が一人暮らしをしていると言います。そして65歳以上の男性の場合約8人に1人が一人暮らしをしており、女性の場合は5人に1人が一人暮らし。つまりは女性の一人暮らしの割合が高く、また東京都の65歳以上の一人暮らしの割合は47都道府県の中でも特に多いようです。

これらの人口における65歳の割合とその一人暮らしの数は今後も増加が見込まれており、その分社会と行政の注目も大きな社会問題だと言えるでしょう。(出所:https://www.stat.go.jp/info/today/111.html )

生涯未婚率が年々上昇し、大シングル時代を迎えると言われている昨今、今後このような独居高齢者問題は日本社会の中で無視できない大きなテーマとなるでしょう。その点において、やはり異世代ホームシェアの持つ可能性は大きいと言えるでしょう。

紹介した業者などに関して興味のある方は以下のリンクをどうぞ。

 

国内の主なNPO法人等

「次世代下宿ソリデール事業」 (京都府 addSPIECE)http://www.pref.kyoto.jp/jutaku/jisedaigeshuku_kyotosolidaire.html

「異世代ホームシェア事業 たすかりたす。」(福井県&福井大学) http://www.anc-d.u-fukui.ac.jp/~ykikuchi/tasukarisu/isedaiHomeshare.html

「トヨノノ異世代ホームシェア」(大阪府豊能町)https://toyonono-portal.jp/archives/2490

「世代間交流ホームシェア」(東京都 NPO法人リブ&リブ)http://liveandlive.org/about.html

「ひとつ屋根の下プロジェクト」(東京都 NPO法人 街ing本郷) http://m-hongo.com/archives/product/ひとつ屋根の下プロジェクトってなに?

海外の主な業者

ホームシェア・インターナショナル https://homeshare.org/


アメリカ ネスターリー  https://www.nesterly.io/


オランダ オンダーグラウンズ http://www.ondergronds.org/en/